練馬区の動物病院 練馬セイブペッツ
リンパ腫
犬・猫ともに血液系の腫瘍の中で最も多い病気です。
リンパ球という免疫系の細胞が癌化し、リンパ節や内臓で腫瘍細胞が増殖する病気です。
体のいたるところから発生し、発生部位によって以下に分けられます。
・多中心型(体表リンパ節が腫れる※)
・縦隔型(胸の中)
・消化器型(胃腸など)
・腎臓型
・皮膚型
・中枢神経型(脳・脊髄など)
※体表リンパ節:触診で触れることができる体の表面にあるリンパ節。
下顎リンパ節、浅頚リンパ節、腋窩リンパ節、鼠径リンパ節、膝窩リンパ節があります。
以下からは発生頻度が高い犬の多中心型高悪性度リンパ腫について解説していきます。
《症状について》
多中心型リンパ腫では、体表リンパ節がこぶのように腫れ上がります。
一般的な症状としては以下が挙げられます。
・活動性の低下(寝ていることが多い、散歩中の活力がないなど)
・食欲低下
・嘔吐
・下痢
初期の段階ではリンパ節が腫れているだけで、全くの無症状であったり、
何となく具合が悪そうだという稟告も多いです。
よくあるのはトリミングの際にトリマーさんから腫れているリンパ節を指摘されて、そのまま病院を受診されるパターンです。
中型犬や大型犬だと成人男性の握りこぶしよりもリンパ節が腫れていることもあり、
『普段から触っているのにどうして気がつかなかったんだろう』と仰られる飼い主様もいらっしゃいます。
初めのうちは見た目が元気そうなので、楽観的に捉えがちですが、
そのまま様子を見た場合には診断日から1-2ヶ月で全身臓器へ腫瘍細胞が浸潤し、亡くなってしまう怖い病気です。
体表リンパ節が腫れている場合には決して様子見せずに迅速で的確な診断が必要です。
《診断とステージングについて》
多中心型リンパ腫の診断法としては、細い注射針で腫れているリンパ節を穿刺して、
リンパ節内の細胞を採取し、顕微鏡で観察します(針生検/細胞診)。
細胞診で判断が難しい場合にはリンパ節の切除生検(手術)によりリンパ節を病理検査に提出することで確定診断に至りますが、多中心型高悪性度リンパ腫の多くの場合には細胞診のみでも診断が可能です。
細胞診でリンパ腫と診断された場合には、体の中の腫瘍の広がりを把握するための画像検査が大事になってきます(ステージング)。
画像検査はレントゲン検査、超音波検査がメインで、胸の中やお腹の中の臓器やリンパ節の評価を行います。
リンパ腫の場合、ステージによって治療方針が大きく異なることはあまりありませんが、病状を把握することによって今後の見通し(予後)がわかることがありますので、しっかりとステージングをするべきだと思います。
《治療について》
検査により、診断と病状が確認できたら、次は治療法について考えていきます。
リンパ腫の治療法のメインになるのは化学療法、つまり抗癌剤治療になります。
抗癌剤は投与後に血液で全身へ運ばれて全身の腫瘍細胞に効果を発揮するため、
リンパ腫のような全身臓器へ広がりやすい腫瘍の治療に向いています。
逆に手術は病変部を摘出したとしても体の別の場所に腫瘍細胞が残るので、
一部の例外を除き、リンパ腫に対する手術の治療効果は低いとされています。
多中心型リンパ腫に対する抗癌剤のプロトコールはいくつかありますが、
代表的なものとしてCHOPプロトコールと呼ばれるものがあります。
このCHOPプロトコールは、
3種類の抗癌剤を1-2週間ごとに投薬し、リンパ腫の寛解と寛解状態の維持を目指す治療法になります。
仮に使用する3種類の抗癌剤を①、②、③とすると、1週目に①、2週目に②、3週目に①、4週目に③という順番で投与し、この①→②→①→③の4回抗癌剤投与を一つの塊としてこれを4サイクル繰り返すプロトコールです(計16回の抗癌剤投与)。
1-2サイクル目は1週間ごとの投薬になりますが、3-4サイクル目は隔週での投薬になり、
トータルで約半年かけてこのプロトコールを終える日程になります。
リンパ腫は抗癌剤治療への反応が良く、
このプロトコールで治療を開始した場合には80-90%程度の確率でリンパ節が縮小し、寛解状態に至ります。
(無症状でかつ見た目上あるいは検査上リンパ腫が見つからない状態)
半年間の治療の後に寛解状態に至った場合には無治療での経過観察で、
症状が特になくても月に1回程度の検診を行なって、リンパ腫の再発兆候をチェックしていきます。
リンパ腫の再発が確認された場合にはもう一度CHOPプロトコールを繰り返して、寛解を目指すのが一般的です。
リンパ腫の腫瘍細胞は抗癌剤に対して耐性を獲得していくため、いずれは抗癌剤の効果はなくなり、どの抗癌剤も効力を失っていきます。
リンパ腫は治療後に病気が完治したとさえ思えるほど状態が改善することがありますが、残念ながら抗癌剤治療でリンパ腫を完治させることはできず、再発・再燃する可能性が高い病気であり、一般的に1年生存率は50%、2年生存率は20%ほどとされています。
ごく稀に治療後に数年以上リンパ腫が再発しない症例も経験しますが、基本的には診断を受けた時点で覚悟を決めなくてはいけない厳しい病気であるという認識が必要です。
抗癌剤治療によって得られる時間はご家族にとってはかけがえのない時間であり、これまで以上に大切な時間になる一方で、ご家族の考え方によっては抗癌剤治療をせずに緩和ケアを選択されるご家族もいらっしゃいます。
緩和ケアだけにするのは後ろめたい気持ちになってしまうかもしれませんが、緩和ケアでペットを精一杯支えてあげることは立派な治療です。
腫瘍の治療には全員が納得できる正解はなく、それぞれのご家族によって正解があると思います。
リンパ腫に限らず腫瘍になってしまうと厳しい選択に迫られる事も多いですが、どのような向き合い方がご家族にとって最も納得がいくかをよく考えて治療に進むことが大切ですので、判断に迷う時には我々獣医師にご相談いただければ幸いです。